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東京高等裁判所 平成6年(ネ)3419号 判決

控訴人

有限会社X

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

堀江潔

被控訴人

株式会社富士銀行

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

海老原元彦

廣田寿徳

竹内洋

馬瀬隆之

半場秀

主文

一  本件控訴及び当審において追加された請求をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年二月二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  (当審において追加された予備的請求の一)

右2項と同旨(ただし、年六分とあるのを年五分とする。)

4  (当審において追加された予備的請求の二)

被控訴人は、控訴人に対し、金五三〇万円及びこれに対する昭和六三年二月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

6  仮執行の宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴及び当審において追加された請求棄却

第二当事者の主張、証拠及び当裁判所の判断

当事者の主張及び当裁判所の判断は、次のとおり訂正し、第三において控訴人の当審において追加された請求についての当事者の主張及びこれに対する当裁判所の判断を示すほかは、原判決の「事実及び理由」欄に記載のとおりであり、証拠の関係は原審及び当審記録中の証拠目録に記載のとおりである。

一  原判決七枚目表八行目に「成立」とあるのを「原本の存在と成立」と改める。

二  同一〇枚目表七行目に「原告」とあるのを「原告(控訴人)代表者」と改める。

第三控訴人の当審において追加された請求について

一  控訴人の主張

1  不法行為による損害賠償請求

(一) Cは、控訴人から預託を受けた三〇〇〇万円を返還すべき債務を担保する目的で、昭和六三年一月二八日、控訴人に対し本件預金口座の通帳と銀行届出印鑑を差し入れた。

(二) 本件預金口座が開設された後、三〇〇〇万円が入金されて払い戻されるまでの経緯に照らすと、被控訴人は、右の担保に供された事実を知っていたか、知り得べきであった。

(三) ところが、被控訴人は、同月三〇日、便宜払という方法により、しかも取立依頼された小切手についての原則的な払戻し可能時刻である午前一一時以前に、Cの請求に応じて本件預金口座から三〇〇〇万円を払い戻した。

(四) このように、被控訴人が故意又は過失によって右三〇〇〇万円を払い戻したために、控訴人は、Cに対する預託金三〇〇〇万円の返還請求権についての担保を失い、同額の損害を被った。

(五) よって、右三〇〇〇万円の預金者が控訴人ではなくCであるとしても、控訴人は、被控訴人に対し、予備的に、不法行為による損害賠償として、三〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六三年二月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

2  不当利得の返還請求

(一) 被控訴人は、昭和六三年一月三〇日、本件預金口座から払い戻された三〇〇〇万円の一部である五三〇万円を、借主C名義の貸付金の返済として受領し、同額の利益を受けた。

(二) また、これによって控訴人は前記の担保を失い、同額の損失を被った。

(三) よって、控訴人は、被控訴人に対し、予備的に、不当利得として、五三〇万円及びこれに対する被控訴人が利益を得た日の翌日である昭和六三年二月一日から支払ずみまで年六分の割合による利息(被控訴人は悪意の受益者である。)の支払を請求する。

二  被控訴人の認否

1  控訴人の主張1(不法行為による損害賠償請求)のうち、被控訴人が昭和六三年一月三〇日にCに三〇〇〇万円を払い戻したことは認め、その余の事実は否認する。

2  控訴人の主張2(不当利得の返還請求)のうち、被控訴人がCに対する貸付金の返済としてCから五三〇万円を受領したことは認め、その余の事実は知らない。

三  当裁判所の判断

1  不法行為による損害賠償請求について

≪証拠省略≫には、Cが被控訴人狛江支店の窓口の行員に対し、「通帳と印鑑は振込人が持ち帰る」と述べた旨記載されているが、この記載は信用することができないことは、引用にかかる原判決の説示するとおりである。

そして、他に、被控訴人の職員が、控訴人の主張する担保に関する事実を知っていたこと又は知ることができたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、控訴人のこの主張は理由がない。

2  不当利得の返還請求について

甲が乙から騙取又は横領した金銭により自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合において、右弁済の受領につき丙に悪意又は重大な過失があるときは、丙の右金銭の取得は、乙に対する関係においては法律上の原因を欠き、不当利得となるものと解される(最高裁判所昭和四五年(オ)第五四〇号同四九年九月二六日第一小法廷判決・民集二八巻六号一二四三頁)。

しかし、本件においては、五三〇万円の弁済の受領につき被控訴人に悪意又は重大な過失があったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の主張は理由がない。

第四結論

以上のとおり、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却し、また、控訴人の当審において追加された予備的請求も理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 及川憲夫 浅香紀久雄)

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